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読書記録 芦沢央ー「火のないところに煙は」

~自分の中の前評判第一位(2018年)~
芦沢央『火のないところに煙は』
新潮社 2018年 ハードカバー

■書評が入口■
年間購読している雑誌「波」(講談社)にそれはあった。
オカルトライター榊桔平氏の「火のないところに煙は」(芦沢央著)の書評だ。
普通の書評ならサッと読んでしまうところだが、なにやら編集部注が付いてい
る。
寄稿後追加取材をして原稿を差し替えたいと連絡を受けたきり榊氏と連絡が取
れていないと。
書評を参考に本を選ぶことはままあるが、いつもとは違う角度から入るのは初
めてである。

■暗黒ミステリ■
短編小説の執筆依頼を受けた「私」は断ろうかと考えていた。テーマが「怪談」
だったからだ。
過去のとある体験を思い出し、部屋の奥にあるクローゼットに目を向けるとこ
ろからこの暗黒ミステリが始まる。

8年前、大学時代の友人に紹介された女性の相談。結婚を考えていた彼と占い
師に見てもらってから二人の関係がおかしくなっていく。
クローゼットの中のポスターが関わってくる「染み」

キミコ先生の所に突然やってきた「お祓いを頼む女」。家族の命に関わる事だ
からと必死に食い下がり、仕事場まで押し寄せてくる所に狂気を感じる。
祟りではないと安心した矢先に起きた意外な結末。トシフミ君が聞いた笑い声
とは?

理想通りの中古の一軒家を手に入れた若夫婦。優しく面倒見のいい隣人寿子さ
んの目撃した話から家庭が崩壊していく「妄言」。
寿子さんが確かに見たという情景の謎。読後に震える。

夫の実家で暮らし始めた智世さんが見るようになった奇妙な悪夢。以前夫の母
も見ていたのと同じだった。
夢に現れる人影の言う「助けてって言ったのに」とは?
怪異というより人の怖さが染みる。

「誰かの怪異」は大学生が一人暮らしのために借りたアパートで起きる不思議
な現象。過去隣の部屋で幼い女の子が亡くなったのが原因か。
話を聞いた友人が連れてきた盛り塩とお札で除霊をするが、失敗する。何故か?
母の想いが虚しく露呈する。

書き下ろしの「禁忌」は数ある聞いた話の中からこの5話を選んだのは何故か。
浮かび上がってきた「占い師」の存在。ついに「私」にまで怪異が迫る。
そして連絡のつかなくなった榊さん。話がパズルのように繋がってくるとこの
暗黒ミステリは完成に向かう。でも完結することはないだろう。

本屋大賞2019 9位おめでとうございます。