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【ここ読んで!!3(スリー)】蠅

こんにちは。

今日は先日に引き続き、横光利一氏の短編「蠅(はえ)」です。

 

蠅

 

 

 

日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (岩波文庫 緑75-1)

日輪・春は馬車に乗って 他八篇 (岩波文庫 緑75-1)

  • 作者:横光 利一
  • 発売日: 1981/08/16
  • メディア: 文庫
 

 「赤い着物」同様、こちらに収録されています。

 

 おすすめその1 蠅の視点に注目

冒頭に出てくる”ただ眼の大きな一疋の蠅”が、蜘蛛の巣から生還し馬の背中に這い上がるシーンから始まります。

この蠅が馬車の屋根の上から淡々と変わりゆく風景を、そのあとに起こる”悲劇”を見ています。

この蠅のカメラのような(眼の大きな、という表現もカメラっぽく感じます)視点にしているところがより”悲劇”を引き立てていると思います。

それぞれ目的や事情を抱えた乗客たち。息子が危篤、小さな子供、大金を手にして夢を描いている人・・・あっけなくぶった切ってしまうには「蠅」が適役だったのではないでしょうか。

 

おすすめその2 対比を楽しむ

息子の危篤の知らせに一刻も早く馬車を出してほしい農婦と、誰も手を付けていない蒸し立ての饅頭を食べるのが生きがいの馭者(ぎょしゃ)。涙声の農婦を見もせずに憮然とした対応しかしない。この温度差。後から来た乗客のイライラが募るも気にしない。

 

饒舌な田舎紳士と一人だけ外を見ている男の子。男の子は目に映るものに興味深々なのに、母親はいつも生返事。

 

迫りくる危機に対して、馭者は居眠り、居眠りに気付かない乗客たち。知っていたのは蠅のみ。

 

蠅は大きな眼で俯瞰、馬は目隠しをされており目の前しか見えない。

 

動かなくなった人と馬と板片とのかたまりと、悠々と青空の中を飛んでいく蠅。

冒頭の蠅の生還と、文末の人と馬の死。

 

対比を見つけ出すのが面白いです。

 

おすすめその3 考察を楽しむ

感覚的で色彩・映像美あふれる作風である「新感覚派」の作品は考察を楽しむのにぴったりです。

短編ですが、余韻に浸りながら考える余地がたくさんあります。

なぜ、蠅にしたのか。

人間から見た蠅は、うざったく潰してもなんとも思わない。もしかしたら、蠅から見た人間も同じなのではないか。結末のあっけない死も腑に落ちるような気がします。

 

乗客の家族のその後も気になります。農婦の息子は?男の子の母親はなぜ上の空だったの?田舎紳士の持っていた大金は?娘と若者はどこへ行こうとしていたの?ああ、気になる。

 

まだまだこの作品を楽しめそうですね。