読書大好き!とみつきです

読書大好きとみつきが読んだり食べたり出かけたり。

読書記録 京極夏彦ー「厭な小説」文庫版

~タイトル通りの気分になる小説~

京極夏彦「厭な小説」文庫版
祥伝社文庫 2012年

■初めて抱くこの感情に戸惑う
「厭だ」
読中読後に感じる瞬間は多々あるが、最初から最後まで厭な気分になるのは初
めてだ。この感情をどう処理したらいいか解らない。戸惑う。
しかも「嫌だ」でもなく「いやだ」でもない。
「厭」の漢字しか当てはまらない。
巻末の「厭な解説」でも同じことを述べていて大きく頷いてしまった。
次から次へと厭な話が続く。もう厭だと本を閉じようとしてもページをめくる
手が止まらない。
読み進めていくと益々「厭度」が上がっていく。あぁ。厭だ。
これは怖いもの見たさなのか。ホラー映画を指の隙間から見ている気分になる。

読後に夕飯の支度をした。
鍋で肉と野菜を煮るとグツグツと沸騰し、灰汁が出てくる。取ってもまた出て
くる。何度も何度も。
何だか厭な感情はこの灰汁みたいだなと思った。
普段の生活の中にもじわじわと出てくる感情。取っても取り切れない。
鍋の淵にこびりついた灰汁の後。そのままにしておくと取るのに難儀する。
あぁ、厭だ。

■構成の妙
登場人物が次々と「厭な」ことに巻き込まれていく。
「厭な子供」上司からの不条理な苛めに合っている同僚の愚痴から始まる。
その愚痴を聞いていた同僚が自宅で知らない子供と対面するところから厭な話
が廻り出す。
「厭な老人」最も頭が混乱する話。読後感グレー間違いなし。
「厭な扉」ある意味、現代ファンタジーと残酷感の間。
「厭な先祖」嗅覚を厭に刺激される。仏壇の中に入りたくないと思う話。
「厭な彼女」自分から観る世界は正しいのか。狂気を纏うのは自分か、彼女か。
「厭な家」痛覚を伴う厭な話。住み慣れた家の意思なのか何なのか。

読み進めていくと、登場人物に既視感を感じてくる。バラバラだった話が一本
に集約されてくる。
さらに全ての話に共通して登場する人物が浮かび上がってくる。
この厭なスパイラルの元凶かと思いきや、最後の話に繋がっていく。

「厭な小説」厭なスパイラルの集大成。伏線の回収がこんなに厭な作業になる
とは。苦行とも思えるような作業だが最後まで読むのを止めさせてくれない。
あぁ、厭だ。

厭なのに面白かったとはこれ如何に。